滝田ゆう『寺島町奇譚』(ちくま文庫)

  • 滝田ゆうは5歳まで、現在の東京都墨田区向島で育った。東京大空襲で街が焼けたのを機に、そこへは戻っていない。この作品は、その頃の記憶で滝田が描いた寺島町の思い出である。
  • 当時の向島といえば、いわゆる花街であり、バーや銘酒屋が軒を連ねていた。入り組んだ路地は迷路のようで、「ぬけられます」の看板をたよりに路地に入ると、「ちょいとちょいと」とお誘いの声がかかる。そんな街に育つ小学生・キヨシの視点があたたかい。