キリンジ『スウィートソウルe.p』

 キリンジである。とにかくキリンジである。

  • 一曲め「スウィートソウル」は、夕御飯のシチューのような温かみの中に、深夜23時のコンビニに訪れる一人暮らし―または若いカップル―のドライな安らぎが、それぞれ喧嘩することもなく同居している。20代中半〜30代前半で独身の人間が描ける、等身大の「幸せ」の雰囲気って、こんな感じじゃないのか。
  • 活目すべきは3曲目「愛のCoda」。ボサノバのリズムにフランスの風味を乗せた感じ。実際よく聞くと、ワン・ノート・サンバという曲(だったかな?)に、使われている音がよく似ている。このミニアルバムには全曲インストゥルメンタルが入っているが、そちら(9曲目)だけ聞いてもおなかいっぱい。
    • しかし歌詞がまたすごいのである。約半年の長期滞在先での恋。やがて訪れる別れ。雨の飛行場。それを追憶する男。まるでセピア色の映画のワンシーン。
「帰りのチケットを破る意気地も/愛に生きる勇気もない」
「今でもあなたはまだ探しているの?/醸し出されることのない美酒を/雨に負けぬ花になるというの?/やわらかな心を石に変えて」
「今はただ春をやり過ごすだけ/浅い夢酔えないあなたのように/行先も理由も持たない孤独を友として」

 他の曲もそれなりに聞き所はあるが、愛のCodaはノーベル文学賞ものである。